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東京地方裁判所 昭和45年(ワ)3264号 判決

原告

ツエルベーゲル・アクチエンゲゼルシヤフト・アバラー

テ・ウント・マシーネン・フアブリケン・ウステル

代理人

大場正成

外三名

被告

日本セレン株式会社

代理人

高井常太郎

外一名

主文

被告は、別紙目録記載の装置を生産しまたは譲渡してはならない。

被告は、その所有する前項記載の装置を廃棄せよ。

訴訟費用は、被告の負担とする。

この判決は、原告が、金四〇、〇〇〇、〇〇〇円の担保を供するときは、かりに執行することができる。

事実

〈前略〉

第二 当事者の主張

一  請求原因

1  原告は、左記特許発明の特許権者である。

特許出願 昭和三九年九月三〇日(昭和三九年特許願第五五三一八号)

優先権主張 スイス国、一九六三年一〇月一日)

出願公告 昭和四二年三月七日(公告番号昭和四二年第五五九四号)

特許登録 昭和四二年八月二一日

特許番号 第四九九六〇九号

発明の名称 特に紡績工業の電子的監視装置における測定部材の測定の場の長さを延長する方法および装置

2  本件特許発明の特許請求の範囲は、次のとおりである。

(一) 各々の電子的監視装置において得られる各々の増幅器における周波数レスボンスを中央供電装置において発生されて予定の値の間で調整されうる制御信号(Ust)によつて調整することを特徴とする中央給電装置から必要なき電電圧を供給される多数の電子的監視装置における測定部材の事実上の測定の場の長さを電気的に遠隔調整するための方法

(二) 多数の監視装置1に共通の給電装置12に設けられて予定の限界内で任意に調整されうる制御電圧(Ust)を供給する制御電圧源、この制御電圧(Ust)をすべての所属の監視装置1に送るための制御線13の如き手段、ならびに各監視装置に所属して、測定部材2の振幅特性に作用するRCユニットを有することを特徴とする各々の電子的監視装置において得られる各々の増幅器における周波数レスボンスを中央供電装置において発生されて予定の値の間で調整されうる制御信号(Ust)によつて調整することを特徴とする中央給電装置から必要なき電電圧を供給される多数の電子的監視装置における測定部材の事実上の測定の場の長さを電気的に遠隔調整するための方法を実施するための装置。〈中略〉

理由

第一本件特許発明の技術的範囲

一原告が、請求原因1において主張する特許発明の特許権者であることおよび同特許発明における特許請求の範囲が原告主張のとおりであることは、当事者間に争いがない。

二本件特許発明の目的について

そこで、まず、本件特許発明の目的に関し主張されたところについて考究する。

〈書証〉によれば、本件特許発明の目的は、次のとおりであることが認められる。すなわち、紡績工場において、巻糸機に取りつけられた各種の糸の監視装置を、その監視される糸の用途に応じた選別方法に適するよう調節するに際し、実際に糸の測定の場の長さを変えて、除去すべき欠陥部分から所望の電気信号を発生させるかわりに、可変抵抗を有するRCユニットを用いて、監視装置の測定部材から送られてきた信号を選別し、所望の周波数の信号を増幅器に入力させることによつて、実際に測定の場の長さを変えたと同様の効果をあげることができるが、これらの方法および装置は、いずれも本件特許発明の出願以前に公知であつた。ところで、通常、紡績には多数の巻取ユニットが設けられ、それぞれに監視装置があるので、これを糸の種類に応じ、中央で一括制御し、所望の欠陥部分を検出除去できるようにする必要が生ずる。本件特許発明はこのような糸の監視装置において、右の一括制御の要求を満たすための方法および装置についてのものである。

被告は、これに対し、電気的装置において、一括制御を行なうことは、公知というより、当業界での常套手段であつて何らの新規性もなく、発明の要部たりえない。本件特許発明において、公知例と異なるところは、増幅器自体の周波数レスボンスを調整すること、すなわち、増幅器と不可分に組み込まれたユニットによつて、測定部から発生した信号を選別するという点にあり、かつ、この点にのみ新規性が認められるから、本件特許発明も、右の点に限定されるべきであると主張する。しかしながら、電気的装置における一括制御の点については、電気的装置の種類および性質の多様性を考慮するとき、その特定の限られた一部の分野についてされた一括制御の既存の事実をもつて、直ちに他の分野の一括制御についても公的であるとの結論を出すことはできないものと解するところ、少くとも、増幅器の周波数レスボンスを調整することにより、測定の場の長さを電気的に変える糸の監視装置については、その調整の一括制御が、本件特許発明の出願当時公知であつたとの事実は、本件における全立証をもつてしてもこれを認めることはできない。そして、前掲〈書証〉によれば、原告は、本件特許発明の出願審査の過程において提出した、審査官の拒絶理由通知に対する意見書において、「特に、もし複数の糸監視装置を設置してこれら監視装置のすべてを同じ状態のもとに作動させるべきであれば、すべての装置を同じ方法で測定範囲を調整して制御することが必要であります。このことはすべての装置に影響を及ぼす電気的制御信号を調整することによつて行われます。本発明は、この課題を上記の制御信号によつて変えられる周波数レスボンスに関して増幅特性を制御することによつて解決します。」と述べている点からも、本件特許発明の目的は明らかであつて、他に本件特許発明が右一括制御をもつてその目的とするものとなしえないとする証拠はない。また、右増幅器と周波数レスボンスの調整回路に関する被告の主張についても、なるほど、前示甲第二号証によれば、本件特許発明の特許公報中の実施例についての第一図の回路においては、増幅器の周波数レスボンスに影響を及ぼす構成要素たるRC回路(ユニット)は、増幅器の他の構成要素であるトランジスターと有機的に結合され、右RCユニットを分離すれば増幅器としての作用もなくなつてしまう結果となる。しかし、同公報第三図に示される実施例においては、増幅器の周波数レスボンスに影響を及ぼす構成要素は、増幅器21の出力側18から、コンデンサー25、26、抵抗23、24を通つて、右増幅器の入力側にいたる負帰還回路と、給電装置12からの制御電圧Ustによつてダイオード27の抵抗を変える負帰還調整回路とからなり、また、同公報の実施例の第五図における右構成要素は、コンデンサー25、26からなる負帰還回路と、給電装置12からの制御電圧によつてトランジスター28の抵抗を変える負帰還調整回路とから成つているのであつて、右いずれの構成要素とも、本来の増幅作用を行なう要素たる同図上の増幅器21からは機能上独立し、これを分離しても、増幅器21の増幅機能には影響がないものといわなければならない。したがつて、本件特許発明の特許公報の実施例からみても、本件特許発明の要部を被告主張のように限定することはできないし、他に右被告の主張を肯認するに足りる証拠もない。

三方法についての本件特許発明の技術的範囲

前示認定の事実および前掲甲第二号証を総合すると、原告が請求原因4において、方法についての本件特許発明の技術的範囲として主張する点は、いずれもこれを認めることができる。すなわち、

1  多数の電子的監視装置に、中央給電装置から必要なき電電圧を供給する方法であること。

2  右電子的監視装置の測定部材の事実上の測定の場の長さを電気的に遠隔調整する方法であること。

被告は、本件特許発明の特許公報において、遠隔調整の作用効果として記載されているところは、何ら新規なものではなく、これを発明の要部についてのものとみることはできないし、また測定部材は、右公報中の実施例に記載されたコンデンサー形式のものに限られる旨主張するが、既に前示二において、本件特許発明の目的に関して判断したとおり、糸の監視装置における遠隔一括制御が、本件特許発明の目的であることが明らかであるから、右遠隔一括制御のため構成要件が本件特許発明の技術的範囲内にないということは到底できない。また、本件特許発明における測定部材についても、前示当事者間に争いのない特許請求の範囲には、測定部材について何らこれを限定する文言もなく、また他にこれを被告主張のように限定して解釈せしめるに足りる証拠も見当らない。右特許請求の範囲に「増幅器における周波数レスボンスを……調整することを特徴とする……測定部材の事実上の測定の場の長さを電気的に遠隔調整する……」との記載がある点からみれば、右測定部材は、増幅器において、その周波数レスボンスを調整するに適する電気信号を入力させるものであれば足りるものといわなければならない。

3  右の各々の電子的監視装置において得られる各々の増幅器における周波数レスボンスを、中央供電装置において発生されて、予定の値の間で調整されうる制御信号によつて調整すること。

被告は、本件特許発明の技術的範囲は、増幅器自体において、その周波数レスボンスを変えるもののみに限定されるべきであり、本件特許発明の特許公報には、中央給電装置において、制御信号を発生することについては、何ら具体的な手段が記載されていないから、本件特許発明の要部とはなりえない旨主張するけれども、右増幅器の周波数レスボンスを変える方法に関する主張部分については、本件特許発明の特許公報記載の実施例からも、右被告の主張が理由のないものであることは既に前示二において判断したとおり明らかであり、また、右制御電圧の発生についても、同特許公報中の発明の詳細な説明および第一図によれば、右中央給電装置は、制御電源としても用いられることが明らかであり、この点から、右制御電圧が同装置内で発生させられることは容易に推認できるし、また、当業者として、右の程度の記載があれば、これを実施に移すことができるものと解されるので、右要件を特に除外すべき理由は見いだしえない。

四装置についての本件特許発明の技術的範囲

原告が請求原因5において、装置についての本件特許発明の技術的範囲として主張する点は、前示認定の事実および前掲甲第二号証を総合すると、いずれもこれを認めることができる。すなわち、

1  各々の電子的監視装置において得られる各々の増幅器における周波数レスボンスを中央供電装置において発生されて、予定の値で調整されうる制御信号によつて調整される装置であること。

被告は、本件特許発明の技術的範囲は、増幅器自体の周波数レスボンスを調整するものに限定される旨主張するけれども、本件特許発明の特許公報記載の実施例からみて、これが理由のないことは、既に前示二において判断したとおりである。

2  中央給電装置から必要なき電電圧を供給される多数の電子的監視装置における測定部材の事実上の測定の場の長さを電気的に遠隔調整するための方法を実施するための装置であること。

被告は、右装置は、電気的装置における常套手段であつて、本件特許発明の要部たりえない旨主張するけれども、これが理由のないことは、前示二において判断したとおりである。

3  多数の監視装置に共通の給電装置に設けられて、予定の限界内で任意に調整されうる制御電圧を供給する制御電圧源を有すること。

被告は、右制御電圧源については、本件特許発明の特許公報に具体的手段および作用効果が記載されておらず、また、右装置は新規なものでもないから、本件特許発明の要部たりえないと主張するけれども、既に前示三の3において判断したとおり、右特許公報には、制御電圧源につき、実施可能な程度にその記載があり、また、本件特許発明は、多数の技術的要素の結合によつて構成される装置に関するから、その一部分について既存の技術を用いるからといつて、直ちにこれを発明の要件から排除すべきであるとはいうことはできず、被告の右主張は肯認することができない。

4  右の制御電圧をすべての所属の監視装置に送るための制御線の如き手段を有すること。

被告は、かゝる手段は、公知であつて、本件特許発明の要部とはなりえない旨主張するが、中央供電装置から、多数の監視装置に制御電圧を供給することは本件特許発明の要件となつており、これを行なうための手段としての制御線もまた、本件特許発明の一つの必須要件とならなければならない。

5  各監視装置に所属して、測定部材の振幅特性に作用するRCユニットを有すること。

被告は、本件特許発明は、RCユニットを具備していることを要件とするものではなく、増幅器中にRCユニットが一体不可分に組み込まれている回路であることを要件とする旨主張する。しかし、この主張が肯認できないことは、既に前示二において判断したとおりである。

第二被告装置の構造

一被告が別紙目録〈略〉記載の糸監視装置を業として製造および販売していることならびに同装置のうち検出部、制御部、電源部、給電部の構造および同装置の作動と機能が原告主張のとおりであることは、当事者間に争いがない。

二被告装置の増幅部の構造について

そこで、被告装置のうち、原告がその増幅部として主張する部分の構造について検討する。

被告装置の増幅部は、主として、測定部材からの入力電気信号がまず加えられる増幅器S1、次にコンデンサーC1を通つて、ダイオードDとコンデンサーC3からなる低域フイルター、コンデンサーC4と抵抗R4からなる高域フイルターおよびつまみMSによつて調整され、抵抗R1、R2を通つてダイオードDに制御電流を加える制御回路と、フイルター回路を通つた信号が入力される増幅器S2からなることが認められる。被告装置の構成からみれば、被告装置における増幅器とは、検出部から入力する電気信号を増幅する装置であつて、ダイオードDが、制御部から送られる制御用の電気信号によつて、可変抵抗の働きをし、C3と共にRCユニットを構成することにより、その時定数を変え、その結果、検出部から入力した信号の周波数を選別して、増幅器の周波数レスボンスを変化させる構造になつていることが明らかである。したがつて、この点に関する原告の主張は、正当であるといわなければならない。被告は、右フイルター回路は、増幅器からは、機能上独立しているものであるから、右装置を一括して増幅部とすることは正当ではない旨主張する。なるほど、前示別紙目録図面第七によれば、被告装置のフイルター回路は、これを分離しても、増幅器S1、S2は増幅器としての機能を果たしうることが認められる。しかし、被告装置が原告の本件特許発明の技術的範囲に属するか否かの判断の前提として、被告装置の構造を検討するに際しては、右増幅部の構造を、被告主張のように、特に区分して考究する必要はないものと解される。けだし、既に本件特許発明の要件について、前示第一の二および三の3において判断したとおり、本件特許発明の技術的範囲には、増幅器とフイルター回路とが機能上一体不可分になつたものも、また機能上独立しているのも、いずれも含まれるからである。

第三本件特許発明の方法と被告装置の作動との比較

前示当事者間に争いのない事実、前示認定の事実、〈書証〉を総合して、本件特許発明の方法と被告装置の作動とを比較すると、次の事実が認められる。すなわち、

一被告装置における検出部および増幅部の作動は、請求の原因8の(一)および(二)において原告が主張するとおりであり、したがつて、これはまさに本件特許発明にいう電子的監視装置というべく、被告装置は、かゝる電子的監視装置の複数個に対し、一括して、電源部および制御部から作動に必要な電力を供給する構造となつている。そして、右電源部と制御部は、各電子的監視装置に共通に設けられているから、これを本件特許発明における中央給電装置とみることができる。したがつて、被告装置のこの部分を作動させることは、多数の電子的監視装置に中央給電装置から必要なき電電圧を供給する本件特許発明における方法を用いることになる。

二被告装置において、制御部にあるつまみMSを調節することにより、制御電圧は、各電子的監視装置にある増幅部中の抵抗R1、R2を通つてダイオードDに加えられ、その結果、可変抵抗として働くダイオードDおよびコンデンサーC3からなるRCユニットの時定数を変化させ、これによつて増幅部全体としての周波数レスボンスを調整し、測定部材の事実上の測定の場の長さを変えることになる。したがつて、被告装置のこの部分の作動は、電子的監視装置の測定部材の事実上の測定の場の長さを電気的に遠隔調整する本件特許発明における方法を用いていることになる。

三右のとおり、被告装置において、各電子的監視装置にある増幅器の周波数レスボンスを調整するには、制御部にある、つまみMSによつて増幅部内にある調整回路に一括して制御信号を供給することにより行なわれる。そして、右つまみMSには目盛が付され、制御信号は、あらかじめ一定範囲で調整されるようになつている。したがつて、被告装置の右の作動は、各々の電子的監視装置において得られる各々の増幅器の周波数レスボンスを、中央供電装置において発生されて、予定の値の間で調整されうる制御信号によつて調整する本件特許発明における方法によつていることになる。

四以上のとおり、被告装置を作動させることは、原告の方法についての本件特許発明の各要件を充足することになる。

第四本件特許発明の装置と被告装置との比較

前示当事者間に争いのない事実、前示認定の事実、前掲〈書証〉を総合すると、次の事実が認められる。すなわち、

一被告装置における各監視装置に設けられた増幅部には、制御部のつまみMSによつて、中央給電装置に含まれる制御部で発生された制御信号が送られ、これが右増幅部内の調整回路に加えられ、前示第三の二、三において認定した経過によつて、増幅部全体としての周波数レスボンスを調整することになる。そして、つまみMSが一定範囲でしか回らないことも、前示第三の三において認定したとおりである。したがつて、被告装置のこの部分の構造は、本件特許発明の装置の要件たる各々の電子的監視装置において得られる各々の増幅器における周波数レスボンスを中央供電装置において発生されて、予定の値の間で調整されうる制御信号によつて調整される装置であることに該当する。

二被告装置においては、各監視装置に設けられている検出および増幅部に対しては、共通の電源部および制御部が設けられ、制御部のつまみMSを操作することにより、前示第三の三で認定のとおり増幅部における周波数レスボンスを一括して調整し、その結果、検出部において発生した電気信号のうち所望の周波数の信号を増幅せしめることによつて事実上測定部材の測定の場の長さを調整するように構成されている。したがつて、被告装置のこの部分の構造は、原告の本件特許発明の要件である中央給電装置から必要なき電電圧を供給される多数の電子的監視装置における測定部材の事実上の測定の場の長さを遠隔調整する装置に該当することになる。

三被告装置における制御電圧は、各監視装置に共通に設けられた電源部の変圧器、AVRから制御部に入り、つまみMSを通る回路によつて、各増幅部に供給される。また、つまみMSは、前示第三の三において認定のとおり、一定の範囲内で操作できるようになつている。したがつて、被告装置の右部分の構造は、本件特許発明の装置の要件である多数の監視装置に共通の給電装置に設けられて予定の限界内で任意に調整されうる制御電圧を供給する制御電圧源にあたるということができる。

四被告装置における各電子的監視装置に設けられた増幅部には、右各監視装置に共通の制御部のつまみMSから制御電圧を加えるための制御線が設けられている。右被告装置の構造は、本件特許発明の装置の要件である制御電圧をすべての所属の監視装置に送るための制御線のごとき手段に該当することが明らかである。

五前示第三の二において認定したとおり、被告装置においては、各監視装置に設けられた増幅部中のダイオードDは抵抗として働き、これがコンデンサーC3とともにRC回路を構成し、右回路は制御部分から供給される制御電圧によつて、その時定数を変化させられることにより、検出部において発生した電気信号の波形を変え、その結果、増幅部全体としての周波数レスボンスを調整する構造となつている。したがつて、被告装置における右RC回路は、原告の本件特許発明の装置の要件である各監視装置に所属して測定部材の振幅特性に作用するRCユニットに該当するものといわなければならない。

六以上のとおり、被告装置は、装置についての本件特許発明の要件とする構造をいずれも備えているから、右特許発明の技術的範囲に属するものということができる。

第五結論

以上認定の事実および前掲〈書証〉によれば、別紙目録記載の被告装置を作動させることは、原告の本件特許発明の特許請求の範囲(一)に記載された方法を使用することになり、被告装置は、右特許発明の方法の実施にのみ使用する装置であることが明らかであるので、被告が、右装置を製造および販売することは方法についての本件特許権を侵害することになる。

次に、前叙のとおり、被告装置の構造は、原告の本件特許発明の特許請求の範囲(二)記載の装置の要件をすべて充足し、その技術的範囲に属するから、被告がこれを業として製造および販売することは右特許権を侵害することにもなる。

また、前示認定の事実、当事者間に争いのない別紙目録記載の被告装置の構造および前掲〈書証〉を総合すると、被告装置を構成する別紙物件目録(二)ないし同目録(六)に記載の検出部、増幅部、制御部、電源部および給電部の各装置部分は、いずれも、本件特許発明の特許請求の範囲(一)および(二)記載の方法または装置のいずれについてもその実施にのみ用いられるものであることが明らかである。したがつて、被告が右各部分を業として製造および販売することは、右方法または装置に関する特許権のいずれをも侵害する。

してみれば、被告が別紙目録記載の被告装置およびその各部分を業として製造および販売することは、原告の有する本件特許権を侵害することになり、被告が現在、別紙目録記載の糸監視装置およびその部分を業として製造および販売していることは被告の争わないところであつて、将来においても、右製造および販売を継続するであろうことは容易に推認されるので、被告の右生産および譲渡の差止を求める原告の本訴請求は理由があり、また、被告において製造した別紙目録記載の装置およびその部分のうち被告の所有に属するものの廃棄についても、本件特許権侵害の予防のためにその必要があるものと認められるので、いずれもこれを認容することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条、仮執行の宣言につき同法第一九六条第一項を適用して、主文のとおり判決する。

(荒木秀一 高林克己 元木伸)

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